九頭龍権現護摩の前行が始まりました

真言密教における代表的な前行
以下は、真言宗で古来より伝えられている、前行の代表的な修行内容です。九頭龍権現灌頂ごまでは内容が違います。
1. 懺悔(さんげ)法
最初に必ず行うべき修行です。仏前において過去の罪障を悔い改め、心身を清めます。
一般的には「五悔(ごかい)法」を用いる。
身・口・意の罪を悔い、三宝に帰依し、浄化を願う。
本尊の前で真言を唱えながら礼拝を行うこともあります。
2. 発菩提心(ほつぼだいしん)
大乗仏教において最も重視される修行。悟りを得て、衆生を救うという「大悲の心」を起こします。
単なる自己の解脱のためではなく、すべての生命を救済する心を確立する。
真言密教では、菩提心の発願なくして密教修行の本義には至れません。
3. 三密加持(さんみつかじ)
密教の根本的実践である「身・口・意」の三密を仏の三密と調和させる修行です。
身密:印契(いんげい)を結ぶ。
口密:真言を誦する。
意密:本尊を観想する。
この三つを同時に行うことで、仏と行者が一体となる。
4. 四種の修行(四種加行)
伝統的な真言密教では、以下を中心に修めます。
① 護摩(ごま)
本尊の護摩を焚いて、内なる煩悩を焼き尽くすための火の行。
実際に火を焚いて行う「護摩供(ごまく)」が中心。
調伏、浄化、誓願成就の力を得る。
② 三昧耶戒の受持(さんまやかいのじゅじ)
密教における戒律。仏と一体になるための「密教的な戒」を受ける。
清らかな行動、言葉、心をもって修行生活を律する。
③ 金剛界・胎蔵界曼荼羅の礼拝
曼荼羅を拝し、宇宙の構造と仏の智慧を身体で感じ取る。
通常は一日百拝を百日続けるなど、長期間にわたり実践される。
④ 真言誦念
特定の本尊の真言を、百万回に及ぶ誦念で積み重ねる。
たとえば「大日如来の真言」「観音菩薩の六字真言」など。
心を集中させ、言葉と共に意識を仏に同化させていく。
■ 前行を終えた後
真言密教では、前行を真摯に修めた者に対して「灌頂」が授けられます。
灌頂とは
密教の法を正式に授かる通過儀礼。
本尊との結縁、仏の加持力の伝授、行者の新生を意味します。
これにより「本行」すなわち成就法や悉地(しっち)法などの深奥な実践に進むことが許される。
■ まとめ
真言密教における前行は、「仏と一体となるための準備」以上に、すでに密教の核心が凝縮された重要な行です。
懺悔し、発願し、三密を調え、曼荼羅に礼拝することで、行者の心と身体が大日如来の智慧の光に照らされていきます。
前行を丁寧に積むことは、灌頂という次の扉を開く鍵であり、密教の深奥に入るための「魂の礼儀」とも言えるでしょう。